Travel to Arizona 10.

『ゴルフショップオカムラのピンUSA本社取材旅行記 その10』

【映像で見るカーステンさんの信念】
オカムラ社長と管理人が行くピンのアメリカ本社研修初日、
午前中はドルフィン工場と本社工場の見学予定ですが、
本社工場見学前にピン創業者カーステンさんの希少映像を見せてくれるとのこと。

公式サイトなどでカーステンさんの映像を見ることは可能ですが、
今回見せて頂いた映像は今までに見たことの無いものでした。
一体どんな内容だったのか、皆様にもご覧頂きましょう。

まず流れたのがイメージムービー。
在りし日のカーステンさんの映像が断片的に流れていきます。









このイメージムービーが終わった後に本編がスタート。
まずは「PING」というちょっと変わったメーカー名の由来からです。


これは皆さんご存知の通り、
カーステンさんが初めて作ったパターである『1-A』の打音からとられています。
当時は周囲からも「そのピーンって音のパターいいね!」と言われたようですね。


続いてはピン最初期のエピソード。

完成したパターを持ってゴルフショップに売り込みに行ったカーステンさん。
幸先良く9軒の店が1本ずつパターを置いてくれたものの、
半年後に行ってみると売れていたのは1軒だけ(つまり1本だけ)でした。

それは何故か?自分でもゴルフをしながら考えます。
その結果、気付いたのはパターの重心の位置でした。
重心が高すぎたためボールに余分なバックスピンがかかり、
順回転(目標に向かって進む回転)が始まるのに時間がかかっていた※1わけです。

「この理論に気付いたことはピンのパターにとって大きな鍵だった」
とカーステンさんは語っています。


続いてのエピソードはこちら。

ピンは過去に一度だけ借金をしたことがあります。

何のための借金だったのかというと、「パターヘッドの切削機械購入費」です。
機械は当時の金額で1,600ドル。銀行からは1,100ドルを借りようとしたそうです。

カーステンさんは当時GEという大きい会社に勤めていましたし、
すぐに借金できると踏んでいたようなのですが、
銀行はこれを貸し渋り、カーステンさんは困り果ててしまいます。

最終的には借金できたようなのですが、この時相当悔しい思いをしたのでしょう。
それ以降ピンは完全な無借金経営を貫き通しているのです。


まだまだ色々なエピソードが出てきますよ。続いてはこちら。

1-A』で「横方向の芯の広さ」に着目したカーステンさん。
それをわかりやすく説明するために凸型と凹型の金属を用意して説明します。

凸型のパターは芯を少しでも外すと反発力が弱まり、方向性もバラバラになりますが、
凹型のパターは多少芯を外しても反発力が落ちず、方向性も安定します。
つまり、芯から離れたところに重量があるほど芯は広くなるわけです。

これと同じ理論を今度はアイアンにも試してみるわけですが、
カーステンさんはここで「縦方向の芯の広さ」にも着目します。

例えばEYE2アイアンはトゥ側が高くなっている独特の形をしており、
これがユーザーによっては「ちょっと気になる」という評価もありました。

しかしトゥ側を高くしているのには勿論意味があります。
打点がほぼ横一列のパターと違い、アイアンは「上下に芯を外す」可能性もあるからです。

トゥ側を高くして左右だけでなく上下の寛容性も高めることで、
芯は横方向だけではなく縦方向にも大きくなったのです。
これこそがEYE2アイアンの人気を支えた秘密の一つでもありました。


どんどん行きましょう。続いてはこちら。

1984年のセールスミーティングでシャフトに関する話をするカーステンさん。
長い定規のようなものを机に固定し、
その端にゴルフボールを置いて定規を曲げていきます。

ぐにゃりと大きく曲がった定規にはそれほどの反発力が無いのか、
ボールを弾き飛ばすことはできませんでした。

今度は逆に定規を極端に短くして机に固定。
同じく端にボールを置いて定規を曲げていきます。
するとどうでしょう。同じくらいの力で曲げたにも関わらず、
短くした定規の方が遥かに大きな力でボールを弾き飛ばしたのです。

つまり「シャフトは長過ぎるのも良くない」ということですね。
もちろん長い方がよくしなるのでタイミングは取りやすいですが、
振れるのであれば短く硬いシャフトの方が方向も安定して飛距離も出るよ、
とカーステンさんは伝えてくれたわけです※2


さて、次はピンマンに関する話題です。

カーステンさんはクラブ開発において設計だけでなく「テスト」も大変重視していました。

初期の頃は人間によるテストしかできませんでしたが、
やはりこれでは正確なデータが取れず限界があります。

ただボールを闇雲に打つのではなく、
人間と同じように肩や腕、手首が動くリアルなロボット。
そんなテスト用のロボットを作ることがカーステンさんの課題の一つでした。


そして1976年に完成した初代のピンマンは、
これまで見ることのできなかったヘッドやシャフト、
ボールの挙動を事細かに見せてくれました。

ピンマンの登場によりブラックボックスだった部分が白日の下に晒され、
カーステンさんのクラブ開発は新たな局面を迎えます。


新商品開発の際は必ずピンマンを用いてテスト結果をチェックし、
完璧な結果が得られた商品のみ世に出ることを許されるようになったのです。
今でこそコンピュータを用いたテストは当然のように行われていますが、
当時このようなロボットを作ってまでテストしていたメーカーはありませんでした。


次は「クラブの品質向上について」。
カーステンさんらしい、独自の視点で語られる話が実に興味深かったです。

ゴルフクラブという商品は品質が第一だと話すカーステンさん。
高い品質は「お客様の満足」に繋がるだけでなく、
「従業員が楽しく仕事できているかどうか」の物差しにもなるんだ、と続けます。

何故なら、彼らが高い志を持って楽しく仕事をしていたら、
自然と商品の品質は高くなっていくからなんだよ、と。
そして彼らが楽しく仕事できる環境を整え、教育することが私の仕事なんだ、
とも話していました。



「なるほどなぁ」と思うと同時に、こういう考え方だからこそ
50年以上の長きに渡って続いてきたんだろうなと感じましたね。
ちなみにピン社は離職率が非常に低く、40年以上勤めている社員も大勢いるそうです。


続いてはフィッティングやカスタムビルドについて。

ピンはフィッティングをメインに展開しているわけですが、
こういった展開の仕方をしている最大の理由は
「その人に合ったクラブを使ってもらいたいから」だと話すカーステンさん。
世の中には身長の高い人もいれば低い人もいますし、
腕が長い人もいれば短い人もいます。
つまり、スイングはその人によって異なるわけです。



そしてそれらの人々に対して最適なゴルフクラブを作るのが我々の使命であり、
他のメーカーのように先にクラブを作ってしまって押し付けるようなやり方はせず、
それとは逆のことをやっていきたいと考えているんだ、と話しています。
う〜む、これぞピンイズムといったお話でした。
この高い志ゆえに、ピンは世界中で愛され続けているのだと思います。


次は「成功の兆しを感じたのは?」という質問に対する回答です。

1960年代。
カーステンさんがまだ年間300セットのアイアンしか作れなかった頃、
あるゴルフコースのプロから45セットもの注文が入ったそうです。

そのプロに対してカーステンさんが「何故そんなに沢山買ってくれるんだい?」
と話をしたところ、
「あなたのクラブを使っているメンバーさんはハンデがどんどん下がってるんだ。
 だからみんなあなたのクラブを欲しがってるんだよ」
という返事が返ってきたそうです。

これが最初の成功の兆しだったと思う、とカーステンさんは振り返っています。


ちょっと面白かったのがこの「ゴルフボールの力」というお話。

カーステンさんが唐突に
「ゴルフボールは世界最強のツールじゃないか?」と話を始めます。
なぜならあんな小さいボールの行方を巡って人は怒ったり、
ゴルフクラブを投げたりするじゃないか、と。

挙句の果てには先日、アイアンのヘッドが外れてしまったゴルファーが
「こんなもの埋めてしまえ」と6番アイアンを土に埋めてしまったのも見たんだよ、と。

あの小さいボールが人々の心に様々なマイナスを及ぼすのであれば、
自分は良いクラブを作ることでそのマイナスを取り除いてあげたいんだ、というお話でした。

とてもいいお話なんですが、
6番アイアンを土に埋めてしまったゴルファーの話が面白くて、
この時は笑いを噛み殺していましたね(笑)。


映像も終盤。続いてはこちらです。

この仕事をしていて一番嬉しく感じる時は?という質問に対し、カーステンさんは
「ピンのクラブを使っている人が自分のところに来て、
『このクラブを開発してくれてありがとう。自分はこのクラブをとても気に入っているんだ』
と嬉しそうに話してくれるのを聞く時だね」と回答しています。


ゴルフというゲームは1ラウンドに何時間もかかる難しいゲームだから、
使う道具が本当に信頼できるものであればあるほどより楽しめると思う、
とも話していました。


このお話を最後に、レーガン大統領からの表彰場面やボブ・ホープとの親交、
そしてスピーチをするカーステンさんの映像が流れてフィニッシュ。









実際の映像は約10分強なんですが、内容盛り沢山で大変楽しめました。
「カーステンの哲学」という言葉でしめるのも格好良かったですね。

この後は本社工場を見学したのですが、
こちらは写真・動画撮影不可だったので軽く触れる程度にしようと思います。
本社工場見学後はランチタイムなのですが、その時にアメリカで展開している
ピンのアパレルも写真を撮ったので簡単に紹介していきますね。




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